人と話すのをやめる
心そのままに生きることの何と難しいことか。
夢の中のようには生きられない。空も飛べない。常に頭も心も濁っている。
人にたった一つ何かを伝えることの難しいこと。
たった一つ何かを相手に伝えるためにかかる膨大な時間。
だから情報ネットワークはストリーミングになった。
私はもうやらない。人間が人間に向いていないように、私も確かなことを確かめたり、思いを伝えたり、向いてない。
私はとても乱雑な光の束だ。
詩人なんて悪口だ。お前はちゃんとしてないって遠回しに言ってるだけだ。
でもいいんだもう。
やめるんだ、人と話すの。そう言って会社に通う。
太陽みたいに光を届けようと必死になって疲れて人嫌いになってしまうよりは、私が何言ってるか分かんなくても側にいてくれる人を大事にして信じてもらうほうがいいよ。
誰とも通じ合わない、進歩もしない。
濁った川の中に住むぬるぬるとした生き物になっていく。
誰かが言ってたんだ、「自分を分かってもらおうなんて思っちゃ駄目だ」って。
その通りだと思いながらもわかってもらおうと努力は続けていた。
心のままに生きれるような世界ではない。
理想は永遠に理想のまま、だから美しいって言う。
ここはもっと下で暗いんだ。
今、群れるはずのない鷲の群れが黒いクジラのような影を落としながら、私を包みながら、終わらない鷲の連続が、物凄い羽音を立てて鳴き声を上げて、私を運んでいくんだ。
このベクトル一つ一つは救いへと向かっていて、でも誰にも気付かれないまま、正確には誰の目に入ってもその映像は意識に登らないまま、騒音と凶運の塊が、決して解消されずに空を生きている。
晴れ渡ろうとするのを辞めることだった。
人生一生暗いままで、それも悪くないだろう。