「破壊された女」感想

昨日、劇団お布団新作公演「破壊された女」を観賞した。
まだ分からないけど、再演の可能性もあるので、ネタバレに注意してください。

これまでギリシャ悲劇やメタフィクションSF的な要素を用いて演劇をやってきたお布団の新作公演、今回は今までとは毛色が若干違う。「これまでのお布団の集大成にして新章突入」とは佐々木敦のツイートから引用する言葉だけど、まさにそんな雰囲気だった。

正直、この演劇をちゃんと全部誤解なく観られた気はしないのだけど、私がこれを一回観て感じた素直な感想をここに書き残しておきたい。
この作品は脚本と演出の得地弘基の思想を強く、ダイレクトに出してくる作品だったので、提示されたものについて私は私なりに考えて、答えを出さなければいけないと思った。

分からないので、これが私の好きなものかどうかもまだ分かっていない。
フライヤーには娯楽と書かれていたけど、娯楽と言ってしまっていいのか?

作品は構成的には序章、1章、2章、3章に分けられている。「キャラクターとして産み出され、あらゆる残酷な仕打ちを受けた女の話」「労働の話」「キャラクターとフィクションについての言論」の3つのパート。

この演劇の3つ目のパートで、私(たち)は、得地弘基の抱えているキャラクターに対する問題意識に、これまでの演劇のように湾曲された形ではなく、直に、生で、深く触れることができたと思う。
そのことはとても良かった。ここから人と人の話し合いが産まれると思ったし、今まで何も分からないまま演劇を観ていたから。これは始まりなんだと思う。

キャラクターとフィクションに関する論の展開。
mp3かテキストデータにしてちゃんと理解できるまで読み直したいと思った。一回演劇を見ただけでは、私には理解できなかった。
青い光の横で、役者がキャラクターについて語る。とても静的だ。これは演劇じゃなくてもいいんじゃないかと思った。目を瞑って聞いていたが、テキストが時折表示されるのでずっと聴くことに集中することも出来なかった。

私がこの演劇から受け取ったものは、「世の中がこれからどうなっていくのか、自分たちが何をやっているのかを私たちは分かっていない」ということと、「キャラクターと私たちとは違いなんて無いんじゃないか」ということだった。(観終わった後に残ったものがその二つだったので、もしかして観ている間に私の思考が脱線事故を起こして演劇と違う所に行ってしまったのかもしれない。そのことは語られていなかったかもしれない。ちゃんと覚えていない。)

「自分たちが何をやっているのか分かっていない」というのは、その通りだと思う。俺たちは何も分からない、雰囲気で世界をやっている。
過去に何をしたのか、今何をしているのか、これからどうするべきか、どうなっていくのか、それが分かっていない。知らない間に大切なものを踏みつぶして、この場に立っているのかもしれないし、知らない間に何か尊いものを奪って殺しているかもしれない。

もう一つ、多分今回新しく出てきた(と思う)、「キャラクターと私たちはイコールなんじゃないか」ということについては、一考した上で、「普段食べている家畜がどう調理されてるのかを見せられたところで、私は生き方を何も変えることがない、家畜を食べ続ける、キャラクターを消費することを選択する」のだと思う。
愚行体験アトラクションに娯楽と言うラベルを貼ってやり、善や悪を面白半分で演じ、自分の快楽の為だけに何もかも利用して生きていくのだと思う。

「キャラクターと私たちは殆ど同じようなものだ」という考え方。私たちはキャラクターの地獄に今居て、もしくはその時代が来て、他人事ではなくなるかも知れない。でも今の私にとっては対岸の火事だ、まだ全然そんな実感は無くて、多分自分の尻に火がついてようやく分かるんだと思う。

今の私には、キャラクターと人間を結びつけるもの、考え方、世界の捉え方が、呪いや鎖としか思えない。私はもっと楽観的に生きたい。自分の罪に無自覚に。

この演劇でもう一つ、「社会=フィクション」というキーワードが提示されていたんだけど、それについてはよく分かっていない。社会=フィクションという実感は無いし、私は、社会についてもフィクションについても十分に考えられていない。だから意味が分からない。



昨日考えたのは、そんな感じのことだった。

役者の演技、音響や照明や、その他の演出についてはいつものお布団という感じで、スタイリッシュだった。

キャラクターやフィクションについて、物語を使わずにそのままの言葉で語るようになってしまったお布団は、もう物語やそれに似たこと、フィクションをわざわざやらない、やる必要がないのだろうか。

お布団がこれからどこに行くのかは興味がある、でも好きになれるかどうかは分からない。
私はまだフィクションを消費したいと思う。

これから行われていくのは対話なんだろうか。



破壊された女を見て面白いと言った名倉編の「異セカイ系」を買ってみた。
文体も何も確認せずに買ってしまった。読みやすかったらいいな。