第一次世界聖なる鹿殺し大戦

聖なる鹿殺し。

ヨルゴス・ランティモス監督の映画。

きっかけはその一本の映画だった。
聖なる鹿殺しを観賞した人間に既存の軍事兵器は通用しない。
「聖なる鹿殺しを見てない人間がこんなにも非力だとは…笑える…お前ら全員、俺にとってはピエロなんだよ!」
聖なる鹿殺しを見た男、鹿目。
鹿目は手始めに日本中の聖なる鹿殺しが公開されなかった地域の人間を皆殺しにした。

「聖なる鹿殺しを見た人間だけかかってこい、俺を殺してみろピエロ共!!!」
鹿目がそう言ってから3週間後、聖なる鹿殺しを観た人間同士の戦いが日本中で起き始める。
聖なる鹿殺しを観た人間は、聖なる鹿殺しを観た人間の位置をテレパシーで感じ取ることができる。

同じことが世界中で起こる。
聖なる鹿殺しを観た人間を頂点とした、新しいヒエラルキーが作られた。

聖なる鹿殺し観賞者は、聖なる鹿殺し観賞者しか殺せない。聖なる鹿殺し観賞者同士の無限の戦い。
聖なる鹿殺しを観ていない、聖なる鹿殺し紛争の被害者、伏見安置。
彼は他人とは違う能力を持っていた。
伏見は鹿目の残党、聖なる鹿殺しを観た人間の一方的な惨殺を止めるため、ヒエラルキーをひっくり返すためにある物を発明する。
聖なる鹿殺し殺し。聖なる鹿殺しを観た人間にしか効かない毒。

伏見は聖なる鹿殺し観賞者達の奴隷として振る舞いながら聖なる鹿殺し殺しの殺傷能力をどんどん高めていった。聖なる鹿殺し観賞者の不審死が話題になり始めた直後。
伏見安置の反逆が始まる。
伏見の手には聖なる鹿殺し殺しのカプセル。
「聖なる鹿殺しを観た程度で調子に乗ってる馬鹿な犬共!皆殺しにしてやる…」

伏見の聖なる鹿殺し殺しによる奇襲は成功し、伏見率いるレジスタンスは聖なる鹿殺し観賞者から日本を取り返しつつあった。

しかし。聖なる鹿殺し観賞者の一人が伏見に聖なる鹿殺し殺しを浴びせ、スマホの動画を再生する。
「伏見!!これを見ろ!!!」
それは聖なる鹿殺しのラストシーン。
これを見た時、レジスタンスの長、伏見安置は死ぬはずだった。
だがしかし。伏見は死なない。
「お前…聖なる鹿殺しを観たのに、何故…」
「いや、俺は聖なる鹿殺しなんか観ていない…わからないのか?俺は、『聖なる鹿殺しを観られない』体質なんだよ」
伏見に聖なる鹿殺しを見せようとした男が伏見に射殺される。
「俺は、観たくても聖なる鹿殺しを観ることができない。生まれついての、『聖なる鹿殺しアンチ』なんだよ」

聖なる鹿殺し観賞者も、聖なる鹿殺しを見れば見るほど力を増していく。聖なる鹿殺し観賞者の頂点に立つ『悪魔』と呼ばれる男。聖川(ひじりかわ)。彼は666回聖なる鹿殺しを観賞した。

聖川は鹿目から聖なる鹿殺しを薦められて、その魅力に取り憑かれた男。死んだ鹿目の意志を継ぎ、この世を聖なる鹿殺しで支配しようとしている。

聖なる鹿殺しアンチを持ちながら、聖なる鹿殺し殺しを使って聖なる鹿殺し観賞者を殺し続ける伏見にも限界が来ようとしていた。聖なる鹿殺し殺しも、所詮はただの毒。聖なる鹿殺しを観賞し続ける強い観賞者には毒が効きづらくなっていた。
「これでは犬共を駆逐できない…どうすれば…」

伏見はレジスタンスのメンバーに弱い面を見せられない。
しかしこれではジリ貧だ。
伏見は観賞者との戦闘中に、伏見と同じ高校で映画同好会に所属していた女子生徒、夜越さんを発見する。彼女は映画撮影用の小型カメラを持っていた。

伏見は観賞者から夜越さんを救出し、事情を聞く。
「聖なる鹿殺しを観た人間は、聖なる鹿殺しを観た人間でしか殺せない。伏見くんのような例外を除いて。でも限界なんだよ。
伏見くんは聖なる鹿殺しの本質を無意識のうちに見抜いて聖なる鹿殺し殺しを作ったんだと思う。
聖なる鹿殺しを観た人間は、『殺す』ということの意味を変えてしまう。それは従来のどんな軍事兵器よりも恐ろしい力だった。
私は、その時代を終わりにする。聖なる鹿殺し2を撮ることによって!!」
「聖なる鹿殺し2…だと…!?」
「お粗末な続編、聖なる鹿殺し2を作ることによって、聖なる鹿殺し自体の強さを逆転させる。もう聖なる鹿殺し2が出来れば、聖なる鹿殺し自体の強さは失われる。戦争も終わる。そのためにわざわざランティモス監督にまで許可を取ってきたんだから」
「本気で撮るつもりなのか…聖なる鹿殺し2を…」

こうして対聖なる鹿殺し最終兵器、聖なる鹿殺し2が完成する。伏見、夜越達は聖なる鹿殺し2の公開に成功する。伏見は、聖なる鹿殺しは観れないが、聖なる鹿殺し2は観ることができる。
伏見が聖なる鹿殺し観賞者ハンターとして覚醒する。
「………お前、聖なる鹿殺しを観ていないな、聖なる鹿殺し殺しが効かねえ…なのになんだその力!?聖なる鹿殺しを観た人間を上回る力なんて、バケモノか!?」
「バケモノはお前たちだろ、犬共!見せてやるよ、聖なる鹿殺し2の力…!!!」
「聖なる鹿殺し2だと!!?!?!?!!?」

聖なる鹿殺し2は猛威を振るう。聖なる鹿殺しの時代を終わらせるポテンシャルは十分に発揮された。



唯一、聖なる鹿殺しオリジナルに覚醒している聖川を除いて。



「来い、伏見。聖なる鹿殺しの本当の意味を教えてやる」



「馬鹿な…犬相手に…俺と夜越の聖なる鹿殺し2が…負ける………?」



「俺が、聖なる鹿殺し、本来の意味に『堕とされる』とはな……………」