お布団「対話篇」感想

知人の得地さんが主宰をしているお布団の演劇、「対話篇」を観賞したので、書けるかわからないけど感想を書く。

お布団の演劇は過去に「幽霊と王国」「アンティゴネアノニマスサブスタンス浄化する帝国」「アンティゴネアノニマスフェノメノン善き人の戦争」を観賞したことがあり、私はお布団の演劇で演劇というものにほぼ初めて触れた。

ちなみに今まで一番好きだったのは、得地さん自身もエンタメとして作ったと言っているアンティゴネアノニマスサブスタンス浄化する帝国だ。

対話篇は演出を得地さん、脚本を綾門さんという方が作っていて、綾門さんの脚本には強く惹かれた。

ツイ引用機能がまどろっこしいので得地さんのツイートからそのまま対話篇の概要をコピペする
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今回の作品紹介1、「対話篇」はお布団入門に最適なポップナンバーという趣で、貧乏な女芸人と金持ちの女芸人、お金と才能を巡る二人の話を通して主に演劇‐キャラクターについて考える作品です。明るくてちょっとエモなお布団になる予定です。再演です。お布団初めての人にもおすすめです!!
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この紹介の通り、今まで観てきたお布団の演劇の中では一番ポップで分かりやすく入りやすくて、尚且つお布団らしいメタ要素、演劇とキャラクター、そしてエモが60分にコンパクトに、しかしお得感たっぷりにぎっしりと詰まっていて是非とも人に勧めたい演劇だった。

お布団の演劇はいつも最前列で観るのだけど、自分がカメラマンかカメラマンじゃなくても今この演劇を映像として切り取って保存したい、あわよくばそれをネットにストリーミング配信したいと思った。それくらい、お布団をこの演劇で初めて知るのはお布団の為にも客層のためにもなると思ったのだった。



ここから若干内容に触れていく。



あとは、エモさという点について、アフタートークで知ることができたけど今回の対話篇は再演であってマイナーチェンジされた部分が脚本演出共にあり、それによって激しい攻撃的なエモから、温かい寄り添いのエモが演出されているらしくて、再演前のものも見てみたかったけど今回の優しい対話篇を観ることが出来て良かったと思う。

アフタートークで得地さんが言うには、演出的には再演前は観客に対してバチバチとした攻撃的な表現を向けようという心持ちでそう演出したけど、再演するにあたって心境に変化があり、観客に対して寄り添おうとした結果、温かみのある優しい演劇になったと言っていて、それによって初めてちゃんと『対話』になったというのはドラマチックな展開だ。

思い出した部分から一個ずつ抜き出していく。

得地さんの演劇には皮肉や嫌味をねちっこく言う男のキャラクターが度々出て来るけど、それが嫌味を言う時の得地さんそのものすぎて毎回笑ってしまう。そんなにねちっこくする必要あるのか?と思うんだけど、社会の嫌な部分って8割くらいはその男性のねちっこい台詞や態度が占めているとも思えて、良く言えばリアリティを形成するのに役立っているのかも知れないのでどうなんだ?とは下手に言えない部分がある。

今回の演劇では女芸人Aの大家と女芸人Aの実の父親が大変に憎らしい男で、不快感があった(良くも悪くも)。

この演劇の肝とも言える、劇中劇とも言える女芸人二人の物語がその外側の演劇自体とピッタリ重なっていく構成は、誰が見ても楽しめると思う。良く出来たメタ構造で、斬新とは言えなさそうなものの分かりやすくて面白い。この手の展開はカタルシスがある。多分普遍的な面白さなんだと思う。

本編中繰り返される対話の意義やキャラクターの存在論について?の演説、は、繰り返されることにより力強く意味を帯びて、迫力のあるものだった。

女芸人B役の女優さん(お布団の緒沢麻友さん)は、多分今まで何回かこの人の演技を観ているけど、私はこの人のファンだ。常に淡々としているのに観客に向けて何かのメッセージを発信するシーンになると何かに憑依されたように力強くメッセージを発する。
勿論三人の役者とも、切れ味の良い演技をしていた。

再演にあたって新たに追加された漫才シーンでは、ちゃんと漫才をしていて、漫才だ!と思ってお得感があった。キレもそこそこあった。

この演劇は最後、演劇が終わるまでの5分間くらいを、二人の女性の役者がその役のままで、2つの椅子に向かい合わせに座り、星空のような、蛍光灯のオレンジの豆電球のような、温かい光の下で、Endingの文字を背景に、残されたセリフもなく、意味のない言葉を感情のままお互いに投げかけながら静かに幕を下ろす。

百合でしょ。

今年で一番穏やかな5分間が流れたと思う。エモかった。

その少し前に、女優Bが女優Aのために、お金の代わりに時間=シーン(Scene)を与える瞬間も、魔法のようだったし、寓話のようだった。古い御伽の世界だ。



総合的な感想としては、やっぱり無駄がない、60分間一度もダレずにずっと面白かったなと思う。面白いものをやるよと言われてほいほいついて行って本当に60分間+アフタートークのおまけ付きの面白を流し込まれた感覚がある。

60分間という制限がギミックになっているのも良かった。
今までのお布団の長いダラッとした演劇も嫌いではないけど、やっぱりこっちの方が多くの人に観てほしいなと思う。

11/8現在ではまだ対話篇と、私が見ていない『想像を絶する』がやっているはずなので、気になったら観てほしい。
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