2018年 詩 まとめと解説

こんにちは。2018年に書いた詩と解説です。
新しいものから順番に。



■アルノルディ

割れた花瓶に注がれる水 穴を塞げば生花

大河を望めよ心のままに 溺れる夢の大河を往け

プラスチックのグラスよりもガラスを求めて指を切れ

血は快適か? 距離は真実か?

千年の孤独と共に結ぶ愛はふさわしく夜は夜のままか?

ああ そこにいる 既に怪物は 名刺を持っている

夢のまた夢 夢で指を失いながら 覚えた花の名前を呼ぶ

アルノルディ アルノルディ

一切をただ呑み込め 人食いの花

君が君に戻る時 名前を知る幸福に打ち震えるがいい



【解説】
現実への怯え、期待という名の心の怪物、そして生活の復活への賛美をそのまま詩に変換したもの。分かりやすすぎるかもしれなくて、それでは困ります。



■永遠に一度目

陸上トコトコトコピージャ

我は午後2時 散歩の神

すっきりにして原点 ここのままでそこへ

光のない世界でも宝石の魔力は人を渡り歩き

天まで届け 虹よ 遠心力よ

もはや原初の母として 目線は虚空へ帰りの会

陸上トコトコトコピージャ

二度と同じ形にはならない 二度目などなく 永遠に一度目

火や水や雲を描く天使たちの筐体論

死ぬまでの間 不良品の視界を借りて

偽物としては本物の偽物

ガラス玉や流氷に捧ぐ 愛の嘆き



【解説】
①『ここ』にいるままで『そこ』へ行くこと。『苺階段』と同じテーマ。
②"本物"の魔力。例えばプラスチックやガラスや氷と比較したときの宝石の光というのは、本当に人を狂わせる力がある。



■苺階段(苺積み達の天国、階段を登る登る登る)

私は信じない 考えない 言葉ではない言葉を使う
(私はすべてを幽霊だと思っている すべてを肉や魂だと勘違いするのと同じ愚行に走る、電車が走るのと同じ気持ちで
少しだけ星の力となり 重しとなり 肉を得て疲れを得て)
肌や あなたの息がかかった やわらかな手紙を
(温度とは空白である 空白を埋める作業をしなくても空白は空白のままでそこにいる 手紙に「なにもない」をしたためる)
あなたの you あなたの温度を you 何度も確かめる
(私は確認する 確認することは孤独となり重力となる 己を押し潰し、殺し、何度でも幽閉する 従属させる光の鎖)
雨で消えてしまわないように
(凍えるような寒さの中でいつも降る いつも降る いつも降る)
私のためにある階段 私の幹 私はそこにある光
(それは骨によく似た分身 光の家族 家族の影)
暖かな春を 握りしめる血や肉に灯して
(焼きたての肉はさぞかし美味い 美味い 味わうことなく)
ここにいるまま そこにいく
(私は私のまま あなたはあなたのまま 生きたまま死ぬ)
そこにいる、をする場所へ
(向かっていく光自体を失った光 向かっていく光マイナス光)



【解説】
『苺階段』の解説。
言葉の意味は肉体と同じく、言葉を重くするためにまとわりつく贅肉。そして疲労感という感覚。
詩の温度=語り得ぬ空白。語らないことでしか語れないもの。
個々の人々が抱える孤独には質量があり、引力もある。
階段をやはり登っていく必要があるのだけど、それは言葉により登ることはできない。アインシュタインが頭でまず言葉でも数式でもなくイメージで相対性理論を閃くように、言葉の力では登れない階段がある。
ここにいるままそこに行くこと。不可能なことの達成。
存在する(動詞)ということについて。その、実態を持たない、動き単体。




■苺階段


私は信じない 考えない 言葉ではない言葉を使う


肌や あなたの息がかかった やわらかな手紙を


あなたの you あなたの温度を you 何度も確かめる


雨で消えてしまわないように


私のためにある階段 私の幹 私はそこにある光


暖かな春を 握りしめる血や肉に灯して


ここにいるまま そこにいく


そこにいる、をする場所へ




■羊たちの空

服を全部焼き捨てろ

首にまとわり付く空虚なループの首輪
他人の視線の防空壕 もはや逃げることも追うこともなく

パンを捨てろ

戦う意志を持たない者だけに与えられる
パンよりもっと柔らかい霞を噛め 噛み砕け 終わりなく

住む場所を捨てろ

何処へも行かず 何処も目指すな
鮮烈な年賀状は全てがある ここに 既に 果てしなく

他人との戦争は終わる
自分だけの戦争 自分だけの爆弾

脳の中で爆発が起き
それはやがてエンジンとなる

君は君のまま君だけで
猿を飛び越えることができる



【解説】
捨てることで自由になる。
それは元々持っていた自由を、不自由の皮の中から取り出す作業。煙や霧や蜘蛛の巣をはらい、視界を確保する作業。本当の自分に気がつく。
そしてそれらは一人の中で行われる(!)。
これからの人間は成長に外的なトリガーを必要としなくなる。たった一人で、誰とも争わずにソリューションしていく。




■頭を撫でる、手を繋ぐなどの暴行

笑いながらタイヤの痕を見せる
両親の差異みたいに君を定めて

火傷に注意の看板 強姦に注意の看板
この先ブレーキ落とせ

落石に注意の看板 合法の拷問の手段
ハムスターを椅子で殴る

時代遅れにしよう
綺麗な車体の塗装のように

それは目には見えない殺人で
空っぽの君を血で満たす蛇口

肉袋 糞袋 レンガを素肌に浴びせ

慈しみもなく 尊厳もなく

ガーネットを割るように

叩きつけた



【解説】
どんなに寛大な愛も思いやりも優しさも、人を殺すほどの暴力になり得る。




■白くて名前しかない

何もないよりは少しだけある場所に
名前だけがある視野に

白くて、孤独で、温度が無い
この世界と少しだけ似ている場所に

そこに魂はあるのですか

機械を壊して燃やしたい
煙にストーブとクーラーを乗せて
上にあるとも限らないのに

苦しみも喜びもない
それは救いと呼べますか

私より先に、その未来にいるのですか
これから向かう方角ですか

また会えることを楽しみにしています



【解説】
死んだ友人への詩。
死んだら確かに何もないのだけど、何も無いよりは少しある、例えば、名前くらいはあるのではないか。



■お姉ちゃんは魔法使いだから正しい

欲しかったら欲しいって言う

欲しくないから言葉を捨てる

なりたい動物は何もなくて

人間さえも辞めてしまって

望むことも諦めることも

七面鳥の前で煙になった

愛を教えてくれる教室

あの字幕間違っているね

元気な時だけ飴を舐める



【解説】
こういう日常があっても良いな、と思う。例えば、私に姉がいるとか。お姉ちゃんはとても疲れているのだと思う。



■ワンダードース

呼吸と呼吸の隙間にある、一瞬の酸素を吸い込んで、死んじゃえ、と言う君の瞳の美しさに。

ワンダーランドが落ちて来る。現実に生きる人たちを眠らせるために。五月病の冬眠のために。

細胞はチョコレート、血の中には戦争。
制服姿で現れて、複雑怪奇な落雷の歌唱。

逃げ道が輝き出す。

私達は最初から最後まで、永遠にみなしごだ。
美しいままで死んでいく少女の唇。
Uの音を口にしたまま、花とドレスと焼死体。

宇宙を抱いて歌姫。真空さえも震わせて。

美しさ以外何もない、君のつまらない真実の魂。



【解説】
『宇宙を抱いて歌姫』。
美しいことはつまらないのだけど、そのつまらなささえも美しい。




■汽笛

心は一つしかないと知り
心を金庫に預ける
回らぬタービンは出発の汽笛
宝の在り処を瓶に見て

私たちは自分を歩かせる
予定の為に、体のために
神に願った健康の真っ直ぐな背筋は輝く

軍歌を思い出せば
戦争に生きていたと思い出せば

重なり合う手のひらで壁を少しなでて
これも故郷の風

まだ見ぬ四人の娘に運命を預けて
見飽きた希望の骨を折る



【解説】
仕事の合間に仕事場を抜け出したら新しい物語を思い付いた記念に書いた。ビンが見つかった。



■ビン

ビンを探しに行こう 水平に広い視野の背中で

君の髪さえ映し出す反射 その透明な輪郭へ

チューブになり ランタン揺らし

太陽に憧れて流れ着く星

ビンに満ちる液体の 色と匂いを想ったら

終末最後の始祖鳥が ウォールで羽を休め

ビンはここにないものと月の砂をこぼした

あれがビン あれもビン

虹の屈折の理由を 地図にない街まで



【解説】
何かを探していた。ビンという新しい何か、新しい肉体か、新しい切っ掛けを探していた。




ラフレシア

夏や冬や 逆三角形の神殿より出し欲望の肉塊
グロテスクな顔面で 放てよ異臭を
領域を侵す時 言葉が無限に溢れ出すスピードで
拳の中に収まる程の小さな少女の裸の画像

隣人にはコール 拒否さえもコール
アップデートを許さない光の巨人
幼き雛を閉じ込める 檻の主
言い訳がましく勇ましく

ああ来世に輝く 新天地にて祈りを届け
動きは遅く 特殊な動きは排泄へのゲート
巨体を無視する虚像の美少女
頭に触れる 相互に相互に

自認無きはインターネットの終身刑
さらし首には恐れを知らず
ああ花咲け異形の花よ
迫害の使徒よ ラフレシア 夢現



【解説】
キモオタを書いた詩。




■無限の実在

暗闇に盲目を呪わず愛する夜の鳥や
呼吸という逃れられぬシステムを愛する壊れた肺や
転覆と浮上の繰り返しを愛す幽霊船となり
愛する者を壊しながら!!殺しながら!!愛し
抱きしめながら解体し生まれ変わり続けろ
世界はいつも写真より少しだけ狂っている
そしてまた ここへ戻って来い
今を愛し 生を愛し
綿飴を洗うアライグマの如く
一瞬の宝玉は次の一瞬で水泡に帰し
一歩を踏み出す葦として
一生を往く気まぐれで
命さえ投げ捨てて
魂さえ売り払い
君は君をやめて君になる



【解説】
自分をやめて自分になる、生まれ変わりの詩。



■余命世迷い

Tシャツには僕を怪魚の魚拓に似せて
回転させるは文字 重力死に絶えた星で
ジャンルを行き交う夢を買い 肉体は捨てる
辺境には男 重金属の男 美しく
食後の様子は火事 舞い飛ぶ火の粉に触れる
四方に裂けた呼吸 吹く口笛 カルテット
お終いにしよう 暖炉に証拠をくべて
乱丁の ああ乱丁の
編み込まれた遺伝子から愛のコードは読み取れず
全ての人は神の子と 踏み鳴らす兵器 象の足
明日はよくなるはずと 患者の息の根止める



【解説】




■「風は切断、切断は風」

奴隷と主人の中間の 六面体の肉塊

無限の虹彩 宇宙に漂う恐怖に 寝ぼけた船
宝石の瞳の奥 多重人格のほうき星

膨張 淀み 黒き森の姫の亡骸
享楽や切断や秘める獣の行為 臓物よりも深い傷

三位一体の透明な祝杯 胸板に手を当て無実を謳え

死を攪拌した散文詩 チョークの消し跡
君の背中に蠢く夥しい木漏れ日の雛

白く伸び 白く伸び 凝固する液体金属
君と世界と壁の決壊


前進するための穏やかな自殺

自由を手に入れる為に殺した羽


白銀の世界 浮遊する丘
何も築かず 誰も咎め

朽ち果てた月に打ち捨てられた広告のオーロラ

死に包まれた地球を抱いて

地上を泳ぐ風を集める



【解説】
毛量多子画集のために、毛量多子についての詩。
いつまでも絶えず変化し続けるために、自分を殺すことも、認めることもある、時には自分の羽さえ折ってしまう、そんなことが出来てしまう彼女の無限の可能性。
切断のような風か、風のような切断が絶えず行われ続けている。そして白く伸びていく。
スタンプというものについて。




■遠雷

一度姿を表せば縦横無尽の残像が
君の喉元で 熱い牙で
灼熱の春の最中 抱擁に継ぐ抱擁

人や人の為でなく
石や花と思わしき人間に
千回の接吻 嵐の夜に
メタリックに輝く腕を見せ

今に絶望するなかれ
微かな虫の気配に耳を預ければ
「次はあなたの番よ」と妹の声
真紅の空に鳥の影

過去と未来の国にさえ
その遥かなる野蛮
ただ一度 ただ一度だけ
しかと見よ



【解説】
たった一回でも人生が輝けばいいなと思う。




■脳髄の海

私だけのリアルや
私だけのフィクションや
物語の中に生き
物語を産み続ける君のことを
死んでから本の中で知るなんて

昨日夢で偶然会った
私以外の主人公
生きようとせよ
生きようとせよ
声無き声の静かに脈々と

一切の主観を持たない君の
なんという流れ出す脳が
広がって ただ明日へ溢れて
こんなはずじゃなかったのに
今は海の飼い猫として
飼い主から時間を分け与えられている



【解説】
こんなはずじゃなかったのに。



潰せよ目を潰せよ
目を向けろ 前を忘れろ
高い壁の向こう側から
若い頃の妹の声を拾えよ
拾えよ幼き
小さな海の小さな陸の
砂粒ほどの音を拾えよ
簡単に引きはがせるもの
呼び声に応える影
子宮と子宮が擦れる音
弱いものほど美しく
強いものほど理由を捨てる
勝手に始まった楽園が
今際の横のランプの孤独



【解説】
子宮と子宮が擦れる音。




■栓と天


美しく城
美しい滅び方
滅びへと向かう騎士
割れた鎧
窓ガラスの破片が道を示し
蛍光灯は陥落
城壁の隙間から
街灯か太陽
光は源に
足元に転がった爆弾
蛍光灯は陥落
小指による延命の場面
街灯は太陽
落とし物に気付く時
滅びへと向かう騎士



【解説】
ルールを護ってないしりとり。点と線。




■まさ ま ゆく

くるみ割り人形の心臓
燃える偽婦人の肖像
完全なる自爆作戦

追いかけてきた君が
いつの間にか私の前で
黒く輝く光の中へ

雲の想像 レコードの針
優しくて ただ優しくて
優しく私の全てを鳴らせて

毎日が夢のように始まり
毎日が夢のように終わる

このまま喋れない肉になっても
あなたの瞳で料理作るわ

太陽と地球の距離を愛と認めない
君がこのまま溶けていくのを



【解説】
佐久間まゆについての詩。




■あなた

音の無い時計に挟まれた一枚の手紙
呪われた別れの合言葉
エンゲージの白い 真っ白な灰のように無垢で
硝子の靴を割ったあなたに自由は硝子を突き刺した
モンシロチョウから許しをもらい
夜明けのようになめらかで
砂糖入りの卵焼きの影がタイムループの原型
カーテンの中 湯船の中へ
いざ覆い隠された虚栄の城へ
どうぞ死ぬまで楽しんで
ベールの死ぬほど向こう側まで
いつか帰る場所より赴く出で立ち
無許可で奪い取るスペースシャトル
いつか帰る場所より出る顔つき
あなたがただ二度輝いた
あと何回 生きる手段を置き換えて
あなたの古い炎がまだ また この世界を選んで
忘れられた私の顔を違う宇宙で新しく思い出して
宇宙の中へ あなたの両手の蕾の中へ
どうぞ 私の知らない道へ



【解説】
結婚する友人への詩。




■平原で手前に響く

緑色に凍りつく視点 子どもたちの無実
顔に巻き付く視野の女神 厳重なるセキュリティ
今にも割れんとする想像の釜 明日の日記
これは夢の虹の原理 虹ジェネシスのサイボーグ
ワイヤーフレーム輝かせ 天から神を引きずり下ろす
苗床に飲み込んでいく そして産み また産み
恐怖のレガシーを粉砕した真っ赤な踵をポジションへ
盤面の白黒を裏返し修理する ここは新鮮な生肉で
ああ平原で 平野で 小さな子らの手を引いて
頭蓋骨を割りながら子守唄で目を覚まし
焼けたカーテンのような前髪が 順番に交差する
閃光で時間を裂いて露出する マントルから地殻まで
反響音を半強制的な前転で 魂なき者の心の歌となり
裏返す死神の警笛 夢を語る



【解説】
平手響の持つエネルギーと、その性質。




■私(達)はあの広野へ、鰐になって

人が一人ずつ消えていく
何かが世界を食べている
ビルよりも巨大な肉塊が人の形を成して
井戸の中から這い上がる

ある血統を滅ぼすために作られた毒
事は成る 何事も人目につかず

若さへの憧れ 何も失うものがない空っぽの強さ
坂道を転がり落ちて岩に身体を打ちつける樽

この世界が変わらないから
私(達)は融合をやめない

テレビはまた不祥事を報道し始めた
嵐のように、鰐のように
私の両足は爆弾になって炸裂する

結末を紙の上に吐き出して

炸裂するJelly Bomb
もうなんとかならない奇妙な ここに生まれ変われ



【解説】
描かれなかった漫画『我一介の肉塊なり』の詩。
互いに真反対の絶望を抱えた二人のひとが、望まない形で一人になり、世界に炸裂していく。




■Lunamaple

私達の関係を観客に決めさせて
浅くて小さなプールの中へ充満する
子どもたちはあの灯台の光を頼りにこの世界にやってくる

とくとくと
蜂蜜を指の奥に 頸髄を信じて
自分らしさを突きつけて

舌から零れ落ちる粘土
嫌がる目 とてもからいかわいらしいお粥
子どもたちはあの灯台の光を頼りにこの世界にやってくる

前へと進まないトロッコの中で
頷くと
やわらかな感触のさらさらとしたスズラン

お互いに向かい合って背を伸ばす
一人ひとりの形から同じ分だけ認め合う

子どもたちはあの灯台の光を頼りにこの世界にやってくる



【解説】
タイトルはそのままかえみとだけどあまり関係ない。




■二人の少女の形をした拷問

可愛らしい形を纏った天使の裁縫箱
常時展開される針の筵・小鳥の翼

三つの光が重なり私達になる
人類との類似性を指摘する獣の共鳴

「私は信じることができない」

だが朝食の前に一人へと変わっていく
遠ざけず 目を逸らさない

居場所が奪われる被寄生者 幸福の思想
未来についてのあらゆる可能性を肯定する勇気

たった二人のままで街を壊す怪獣
天使と戦って死ぬ覚悟は出来ている

ハープを弾く



【解説】




■寝相

すべてを失った、そして、すべてを手に入れた

世界なら、私の横で眠っているよ

どんな手を尽くしても、この世界に私の生きていた記録なんて残らない、ただこの一瞬が美しければそれでいい、ガムシロップとミルクの沈殿したコーヒーのままで、墓穴を耳栓で塞ぐ

想いは伝わってもいいし、伝わらなくてもいい、魚が水槽の中なら何処へでも行っていいように、この狭い部屋を世界と認め、鰐の如く回転し、暴れ、時には人を殺し、または助け、お互い寝相の悪さを認知しないほど遠い宇宙で、いつまでもいつまでも踊っていたい、私の体の動きがダンスではなくなっても。

この剥き出しの名札で



【解説】
一人でカフェに行き、コーヒーにミルクを注いだら、そのマーブル模様が私の未来を占っているように感じられた。




『遠く』作詞︰藤想

遠くへ 遠くへ
遠く 遠く

遠くて 遠い 遠くへ
遠い 遠い 遠く

遠くへ 遠くへ

遠くて 遠い 遠くへ
遠い 遠い 遠くへ



【解説】
遠い場所や、遠いということ、遠くへと向かう心、遠ければどこでもいいのだと思う。そこは確かに遠いのだから。



■サルパトラメデスの王言

シャック理に創刻の葉火
皇感を扇ぎ厄去れば
軟病の可死棺にインプロエンス慟り
エンジャンマ 星引き椿焼 断婦章
ドクテニア迷語変ず
島捧げ 獣苗 二う大宇 二う
テクテリ 荒秀愛き亡と
Yか故こく疼つ
八八重つ頭惚のボヘラマヌ文生ず
玉打金拘魔は槍具と称りよ
喉骨も経折つ あまつ程の
食手取り去り度時つ 有闇に
羽を休え 天奈辛使の
水溜りを泉と思えば
東の門を開けて
小さな手のひらで澄んだ水をすくって



【解説】
夢からゆっくりと目を覚ますこと。




■道の駅で

道の駅で牧場のソフトクリームを食べようよ
野生の猫の沢山いる憩いの場で

道の駅で少し大きいホットドッグを食べようよ
木に囲まれた少し暗いお店で

Pの文字を見つけたら左折しようよ
やたら大きいトイレに行こうよ

スターバックスに入っちゃおうよ
少し高いフラペチーノを頼もうよ

道の駅で小ぶりなメロンを買おうよ
助手席にメロンを乗せようよ

道の駅で休もうよ
もう誰も怒らないよ

道の駅で眠ろうよ
明日が来るまで眠ろうよ

道の駅で
道の駅で

もう誰も怒らないよ



【解説】
漫画「WHERE WERE WE?」のために書いた詩。
「あそびにいこうよ!」みたいな雰囲気で、二人でこれから何処かへ行きたいという気持ちの詩。




■人が死んだ(Dynamic)

人が死んだ!
人間(ペンギン)の中身(内臓)は3つのレイヤーに分かれて吹き出す。
黒いレイヤーは沈黙。白いレイヤーは全選択。

赤のレイヤーは肉欲。
それは、やん・シュヴァンクマイエルの作ったスプラトゥーン物語のように赤色の線路の影を落とす。
見てくださいこの鮮度!まるで回転していないウニの寿司のような、美しいね、君の泡は。輝いているね太陽。大量の太陽がずっと沈まないずっと沈まない。やや豚色になりながらも、今にも、鼓動が聞こえてくる。読む絵本だな?本になって売られてるのに人身売買にはあたらないつもりだな?法的なエリザベート
今日は廃・焼肉の気候。

黄色のレイヤーは性欲。
美しいね、君の曲線は。まるで山頂から落ちたスキューバダイビング装置のように瞳が接続されてしまいそうだ。愛と名付けられた液体に鎮魂歌を染み込ませたガーゼで夏は爽やかに滑っていく。
踊ってくれよ君の前で。踊ってくれよ君の影が。
影かげカゲ影影かかかカゲかげ陰陰陰影かげ影。
私と私の四肢の交差に生まれた影のシミ達に君の影は美しいね君の踊りは。
それは漫画のコマ枠のようなシルエットになった。

青のレイヤーは静欲。
スクランブル交差点をホルマリン漬けにした動きを殺されたバスやトラックが眠い、眠いと呪詛を放ちながらシッソウする。美しいね、死んだ君の娘の親の顔は。生命の座席を横移動する巧妙なトリック自殺。
行き先を忘れた君の魂が明日の朝に新聞で見つけることができるよ。
埋められた猫の戸籍。

十秒前。

君はまだ人生の重さを計っている途中で、

五秒前。

君はまだ右足の次に左足を動かすのを知らずに、

ぜろ。

君はまだ顔も足も洗ったことがないのに、

人が死んだ



【解説(旧)】
今回の詩は、人肉の三原色をテーマにしています。人の人生はまるで光のような速さで過ぎ去っていくのに人の死には三原色がないじゃないか、人肉の三原色は美しいじゃないか、美しいと思うことは性欲と同じじゃないかと思い、コンビニの傘立てに千本の桜の木を埋めたくてこの詩を書きました。読んでね。

【解説(現在)】
解説(旧)の通り。人が死ぬ瞬間というのは、複数のレイヤーを持っているのではないか、だとしたらそれは何か、美しさを帯びているのではないか?と思い、死を三原色に例えて書いてみることにした。



■美しい、月のうさぎ

あれはロウ・コンピューターグラフィックスのヒトだ
ブリリアント・カットされたアステロイデア
美のために両腕を失った瑞々しい前衛リョナ
反射して分散する数え切れないほどの視線が
愛の告白と鰐の挨拶を妨げることなく
震えるほどに信じて

ああ
王家を、そんなにも畏れて

原初の醜悪な解像度は
名前を呼んではいけない禁断の汚物は
人間のような
泥遊びを木星のベンチで軽蔑される
見てはいけない領域の白黒の脚も
見てはいけない懐かしさの余り泣いてしまう乳房も
見てはいけない

地獄はそこにある
潰れるほどに
蓋の裏に
瞼に



【解説】
月ノ美兎の詩。




■モールス信号、ようこそ

青いトンネルが気になって、入った

息の荒い蛍光灯の、へい!
迷い、へい!
虫になる場合、住み心地が良くなる

気配に後ろを振り返る
なんだ君か、影はとても親しみやすい
僕のように薄っぺらで、顔がない

影がヘリコプターのように、幼い太陽が狂う
あの音は何を震わせて、あっ!エーテル

へい!へい!僕はこの世界が気に入り始めた
だが25分の親睦は消え失せてしまった

何もない世界が好きになり始めたのに

僕は食べ終わる、ドーナツの穴を、窪みを、その純粋な黒色の中に、黒よりも深い輝きを見たのに



【解説】
電車に乗りながらYukiga Futte Uresiiの25分の曲を聴いていたら、初めてその良さが分かって、分かると同時に曲が終わった。居心地はよかった。
詩の通り、灯りのあるトンネルの中を歩いていくような空気感があった。



■UFOについて

やっぱりかわいいよ
世界一世界が世界を世界に世界し

十一万人の案内人が鉄板に焼かれて
僕一人だけ孤独を教わらなかった
たった一つの眼球に十二個の瞳孔を持ち
鉄板を輝かせる人工的な宝石の光りに騙される
嘘の七夕に騙される
砂漠の底のガラスの匣は隠されて
反省文に鮮血が染み込む
太陽の色に
十二倍に輝く僕にとっては偽物の占い
心の中にしか本物のヒーローがいないのなら
その心は巨悪の笛を待ち望む

そうなると嬉しい
そうなると嬉しくて泣く
泣くために生きることをやめて
成長しない種を愛しなさい



【解説】




■死んだゾンビ

安直な後悔を背負っている

不埒な子猫の亡霊 oh


腐ってしまった君の脳を

夜明けの前に僕ゾンビが啜るよ

洒落臭いぜ 焼け捨てちまって


エピローグもない

スタッフロールもない

死んだお前らの顔が順番に並んでいるさ


平行線を千切って舐めて

馬鹿なロバとカボチャの馬車
笑っちま


【解説】
ノリだけで歌詞を書いた。死んだ友人について、なんで死んだんだよふざけやがってという気持ちだった。



■四対の翼を持つ天使の詩

今から殺し合いが始まるのを

言葉が暴れ出すのを

壁の反対側からただ見ていた

放課後の静かな渡り廊下 罵声と賞賛 個人的な命

心さえも 全部家に置いてきた

星よ願いよ叶えよと願っていた

私は水よりも自由になりたい

宇宙の果てから飛び立ちたい

頭の中には時空の女神なんて居なくて

世界に始まりも終わりもなくて

肩を落として唸っていた

木陰で数字の歌を聴いていた

私は今日 11歳になった

署名の喜びよ 愛の着陸地点よ

猫背の君よ 背筋を伸ばせ

今この時を味わい飲み干せ



【解説】
漫画「芥箱エチカFFF」のために書いた、肩、心、脳、背骨に翼を持つ天使の詩
傍観者だったとある人物の心の囁き。




■滅びの祈り
爆弾もナイフも持たなくていい
あなたはただそこで祈ればいい
滅びの祈りを時の女神に
今日の終わりを伝書鳩に託して

あなたの魂を汚すものが
人と人の隙間に 光と闇の隙間に
星と星との間からあなたを覗く
ときに見守り ときに見捨て
ときに監視し ときに見送る

あなたはだれも呪わないで
ただ滅びを祈ればいい
今日の終わりに 世界の終わりに
あなたの魂を汚す
全てのあなたの敵の滅びを



【解説】
悪いものに対しては戦うことは無意味で、ただ祈るしかないと思い、書いた。
全然ろくな解決策ではない。



灯台の聖女
時を繰り返す分岐に佇む動的なアニマよ
選択することを選択した洗濯機の娘よ その命よ

君の瞳はいつも少し西を見ている
まるで其処に真実の光が現れるのを待つように
金星の方位磁針は常に心に揺らめいて
そこに明日が現れるのを見ている
命の炎が立ち現れるのを見ている
存在の光を見ている

月の裏側に降り立ち 古の花の種を蒔けよ
静かに広がるシンクロナイズな海の娘は
やがて自らの心臓を大海原へと変えるだろう
深淵に輝く宝石のように 深海の奥で拾う者共に

ああ 常に棒立ちで我々を見張る灯台の聖女よ
生娘の歌声で耳の主人に招かれ祝福を
その身が焼かれ朽ち果て紙吹雪になろうとも
君の顎の骨を拾い昨日の君を復元しよう

その命よ 温度よ 惑星よ 永遠なれ



【解説】
月ノ美兎の詩。




■黒と白の女王
君がここに居ないほどの完璧な夜の標本
見捨てられたマフラーと傘の降る焦土に
浮かぶべき白き真円よ
耳を持たない君が君の声を知ることはないだろう

明日の夜 窓辺から飛び立つ夢を見た
少年の声のままで
結局死ぬのなら何も知らずに死んでいけ
その方が天国に近づける

祈りは今も死の国を目指して
道のりは険しく日常は冒涜される
表情を持たない正解の符号
ああ 命は汚れだ 裸足で踊る猿



【解説】
とある知人についての詩。




■理性の帝国3

白い光の中へ消える影影 衛生的な豚の心臓
血管に流れる極小の青い戦争粒子
王冠を巨大な生体カップケーキに埋め込む
ライセンスは主に返還される グローリー
千本の『首』の骨が、組織が、皮が内なる黄金座標へ
枯れた翼も風を取り戻して根を生やす
動的なる者へと還っていく 目には水晶が咲き
君は今ではない君として天使の輪を折る
生じ得ぬ軋轢の渦 止血された神社
生々しい殺気の重厚なる扉を閉め
天女の如き華麗なる鱗を脱ぎ捨てるサロメ
不完全なつぼみへと身をやつし
国を忘れ 親を忘れ 恋人を忘れ
君は君をやめる

やがて小さな村は滅びる



【解説】
元々はとある架空の物語についての下らないアイデアで書いたもので心底下らなかったが、今では理性の帝国の長い漫画のプロットがある。
下らなすぎるので何も言いたくない。



■理性の帝国
タイムコードは墓石を掘り返し、屍の記憶を抹消する。同時に、ゴーストに手切れ金として完全に平面状になった苺を渡し、退散させる。人の生皮で縫われた生体スーツには『html』と呼ばれる温かい液状の鎖が流れており、蘇った彼らは自らの生体スーツを噛み砕くことで本能を失って覚醒する。己の意識を揺さぶる振動だけを声と呼ぶ。声が呼びかける。「魂を収めよ」

屍は天使と出会う。天使は直ぐに自らの手足を屍の心臓部にあるU筐体に接続し、屍は視覚と聴覚を回復する。その直ぐ横で『首』が再生し、再起動する。『首』はキーを再取得し、環境を素早く操作して照明を再生する。完全に自立した自動体液だけが泥水を避けながら『首』に吸い上げられる。
(未完)



【解説】
理性の帝国には何バージョンかがあり、最も古いもの。




詩については今後、『アルノルディ』や『苺階段』『羊たちの空』のような詩を書きながら、尚且つもっと鮮やかな詩を書きたいと思う。

ありがとうございました。